健康経営について(その1) 健康経営とは?不健康による経済損失・リスクと企業の課題!

ケガや病気に対する対処方法や考えは、日本では未だ、
- ”壊れたら、治しに行けばいい”
- 壊れても、何とかなるだろう”
という意識が、一次予防よりも強いです。
「健康のことか・・・それよりも仕事が優先だね。」と、健康は優先順位が低く、後回しにしがちです。
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企業であれば、
「今いる人財(人材)が使えなくなったら、解雇して、新しい人財(人材)を入れればいいか」、という、
いわゆる”人財(人材)は使い捨て”
あるいは、”治療費は企業が負担する”という企業もあるでしょう。
しかし、それが原因で企業の経済損失に繋がることや、労働者が労働基準局などにかけこむことが多く、
現代では、厚生労働省といった機関が
"健康経営"の規制を設けています。
それでは、その健康経営についてお伝えしていきます。
健康経営とは?
そもそも、健康経営とは、どういう意味合いのものなのか、知らない方もいらっしゃると思います。
以下に、健康経営とは誰が提供したのか、どういう意味合いのものなのか、有効性、健康経営を行わないことで起こる損失やリスクについてまとめています。
健康経営とは・・・
1990年代に、アメリカのロバート・H・ローゼン氏が提唱したものです。
「従業員が健康に働き続けられること」を
経営資源の1つと捉えて、
企業が積極的に取り組み業績向上を目指す経営手法のことです。
健康経営の有効性の実証
ジョンソン・エンド・ジョンソン社所属の医療担当専務取締役であるフィクリー・アイザック博士は、グループ企業250社で働く11万4000人の従業員に対し、
健康促進プログラムや
ワークライフバランス支援
を提供し、
投資に対するリターンがあるという結果を出しています。
結果は、“1ドルの投資額に対してリターンが約3ドル”になったとされています。
これにより、健康経営の有効性が実証され、欧米を中心に世界中に広がっています。
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(経済産業省「健康経営に関する調査・研究成果等の提供のお願い」より)
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実際に、
”メンタルヘルスによる休職者率が高いほど、企業の利益率が低い”というデータも出されているようです。
不健康労働者の雇用により、起こる企業のリスク・問題点
経営者の方からのご相談も多くあります。
「社員のこともだが、自分の体も見てほしい。体もメンタルもボロボロで、社員には相談できないし、どうしよう。」というお声もよく届きます。
健康経営も経営戦略の内の1つです。
経営者・社員の
体も心も、
会社を動かしていくための資本の1つ。
”なにかあってから”
”倒れてから”
では、”手遅れ”です。
・・・元も子もないです。
健康に働き続けることと、不健康な状態で働き続けること、何が違うのか?それらも含めてお伝えしていきます。
健康で働くこと・不健康で働くことの違い(メリット・デメリット)
健康と不健康ではパフォーマンスが大きく異なり、会社の売り上げに良くも悪くも影響する場合があります。
単純に・・・
「健康」=「体や心の質が良い=パフォーマンスを上げやすい。」、「売上など業績が上がりやすい。」
「不健康」=「体や心の質が悪い=パフォーマンスが低下しやすい。」、「売上など業績が下がりやすい。」
ということです。
もし、”雇用するとしたら”、また、”資本である経営者・社員が、どちらの状態(健康か不健康か)だと会社にとって、より良いのか”、簡単に例えを使ってみていきましょう。
不健康な人財(人材)にはデメリットがたくさんある!
企業は、健康な人財(人材)・不健康な人財(人材)に同じ月給20万円で雇用するとして・・・
あるいは、お給料を変えたとしても・・・
これらのせいで・・・
- 集中力や決断力に欠ける。
- 仕事の失敗率が高い。
- 決断力・認知力・記憶力・判断力・行動力等が低下し、作業効率が悪い。
- 入院・病欠により他の社員に悪影響が出る。
- 仮に働くことができたとしても、手間や、そのせいで他の社員の仕事が増える。
- 費用対効果が良くない。
- 生産性、パフォーマンスが低下しやすく、業績に悪影響が出やすい。
等により、悪循環を繰り広げて全体のパフォーマンスが低下する・・・
こういった人財(人材)が増え続けることは企業にとって良い影響があるでしょうか?
この状態では、企業にとってのメリットはナイに等しいでしょう。
仮にあったとしても、デメリットがメリットを上回るでしょう。
健康な人財(人材)では、メリットがたくさんある!
健康な人財(人材)では、どうでしょうか?
- 体も心も健康。
- 稼働率が良い。
- 決断力・認知力・記憶力・判断力・行動力等が良く、向上もしやすい。
- 仕事の失敗率が低い。
- 休職や離職、欠勤率が低く、仕事のしわ寄せが起きにくい。
- 成功率UPを図りやすく、業績UPしやすい。
- 生産性が向上しやすい。
- 費用対効果が良い。
- パフォーマンスUPしやすい、落ちにくい。
不健康な人財(人材)と比較すると、デメリットの反対のメリットが多く、デメリットは見つけにくいです。
成功率は高いに越したことはありませんが、成功数が少なくとも、”失敗が少ない”、”作業効率が良い”、その影響で”他の社員も生き生きと働くことができる”、といった”周囲にも
良い影響のある人財(人材)”が、
企業にとって良い影響による相乗効果をもたらしやすいです。
不健康により起こる経済損失の問題について
プリゼンティーイズムやアブセンティーズムにより、企業損失が起きます。
- プリゼンティーイズム(相対的生産性損失等)とは・・・出勤しているが、心身不調により遂行能力等、様々な能力が低下し、本来のパフォーマンスが発揮できないといった状態にあること。
- アブセンティーズムとは・・・欠勤や休職、遅刻早退などで業務に就けない状態のこと。
以下のグラフは、健康状態が生産性に与える影響を調査した結果です。
不健康により発生する損失コストは、低リスクから高リスクになるごとに増えています。
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(経済産業省『健康経営の推進に向けた取り組み』より) |
日本での健康経営の先駆けをした企業、DeNAの健康推進専門部署の平井氏によると・・・
「社員のプリゼンティーイズムの低下による経済損失が23.6億円と推移したことで、健康経営に取り組みだした」、とのこと。
それほど”不健康”による経済損失への悪影響は大きいとされています。
メンタルヘルスと利益率の関係
以下の図は、”メンタルヘルス休職者比率と利益率との関係”を示したもので、
経済産業研究所の研究プロジェクトにより、従業員規模100人以上の451企業に対し、メンタルヘルスの不調が企業業績に与える影響を検証した結果です。
経済産業省『健康経営に関する調査・研究成果等の提供のお願い』より)
メンタルヘルス休職者比率の上昇した企業は、そうではない企業に比べ、「中期的に利益率の低下が大きい」という結果が出ています。
これより、
メンタルヘルスの休職者率と利益率には負の相関があることがわかります。
今後、健康的で良質な人財(人材)の確保・維持は可能なのか?
企業には、そもそも今後、良質で、健康的な人財(人材)の確保や維持をしていくことはできるのか?・・・という問題もあります。
この問題を解決する術として、健康経営の必要性は高まります。
立ちはだかる問題点には、
- 少子高齢化と人手不足の深刻さ
- 自殺率・休職率の仕事への悪影響
これらが挙げられます。
ここから、様々な経済的リスク・人的リスクの可能性がでてきます。
それぞれについて詳しくみていきましょう。
少子高齢化と人手不足の深刻さ
少子高齢化や自殺、2025年問題などにより、
今後、良質な経済資源(人財)の維持が困難になっていきます。
生産年齢人口(15~64歳)が1995年頃から減少し続けていることからも、
“心身不調等により欠員が出たら他の人で補填しよう”ということが難しくなることがわかります。
今後、限られた人財(人材)を大切にし、良質な経済資源(ひと)の育成や、定着率を高める必要性が出てくる、という課題が上がります。
2025年問題
第2次大戦後1947~1949年のベビーブームで生まれた団塊世代が、2025年に75歳以上になり、
全人口の2割弱にあたる約2200万人が75歳以上という超高齢化社会に入ると・・・
大病罹患者も増え、以下4点の変化が起きることが予測されます。
- 社会保障給付額の増額
- 医療機関不足
- 医療費不足
- 親の介護を理由とした早期離職者数の増加
これらに伴い、
企業のコスト問題、
業務効率や生産性が更に低下する可能性が高くなります。
医療機関不足においては、最近では、既に精神科病床が満床で受け入れが困難、
予約が半年~1年以上先まで埋まっている、
なんてこともあります。
また、施設のセラピスト不足や、
診療報酬の問題で通院し続けることが難しいなどの施設側の課題もあります。
すると、人口減少・少子高齢化(生産年齢人口減少)などに伴い、益々、「体を壊したら病院に行けばいい(必ずしも、一度壊れた体や心が、病院に行けば治るとは限らない)」という行動をとることは難しくなっていきます。
こうなった場合・・・
- パフォーマンスが低下し続けた状態で働き続ける”
- 休職する
- 仕事を辞める
以上のいずれかの選択になるでしょう。
今後、労働人口が減少していく中で、AIの発展により人手不足を全てテクノロジーの力で補填できるようなことは、予測しにくいです。
こういったことからも、今後、経済資源である良質な人財(人材)の育成と定着により生産性を保つことが課題になっていきます。
自殺率の問題
日本には、2025年問題、生産年齢人口の減少以外にも、自殺率の問題もあります。
なぜ!これらが、”企業の良質な経済資源(人財/人材)の維持・確保が困難になっていくことが予測される”ことに繋がるのか、こちらを見ていくとわかるかと思います。
まず始めに、世界の自殺率ランキングと、日本は世界ではどれくらい自殺率が高いのかを、見ていきましょう。
- 日本の世界自殺ランキング:6位と、上位(WHOより)。
- 日本の自殺者年齢層:50歳代が最多。若年層も増加し、世界1位。
2025年問題、生産年齢人口の減少、これに加え、今後必要な若者の自殺率も世界トップクラスです。
必要な生産年齢人口数が益々、減りやすいということです。
次に、自殺の原因について見ていきましょうきましょう。
- 自殺の原因1位:病気などの健康問題。精神症状が最多。
- 男女有職者における自殺要因:「うつ病」が断トツの1位。
- 次いで・・・「統合失調症」、「その他の精神疾患」
- 勤務問題では・・・「職場の人間関係」、「仕事疲れ」、
「仕事の失敗」が挙げられます。
- 30歳代以降が若年層と異なる点は、
身体の不調や病気が増えます。
- 仕事で強いストレスを感じる労働者は全体の58%(労働安全衛生調査 実態調査より)。
また、日本国内の人口数は減少していますが、メンタルヘルスに問題を抱える人口数は1996年の43万人から2011年には95万人と過去15年間で2倍以上に増え、今もなお、精神病院が増えるほどに増加しています。
こういったことからも、厚生労働省や労働基準監督署は、
メンタル対策プログラムを制度化させるほど、その割合の増加を問題視しています。
精神面の不調が起こるということは、精神面以外にも・・・こんな症状が出ます。
- 体の不調(頭痛、嘔気、悪寒、耳鳴り、眩暈、自律神経失調症、胃部不快感や胃炎などの内科系症状、ホルモンバランスの崩れによる症状、皮膚症状、心症状など)
- 脳機能の不調(記憶力、思考力、認知力、判断力、注意力、作業遂行能力、集中力等の様々な能力の低下)
それぞれの機能が関わりあっているため、体が脳や精神に影響を及ぼすなど、逆もしかりです。
これらは仕事にも悪影響を及します。
これらより、健康経営として長期的に経済資源(良質な人財/人財)を維持するためには、対策・予防は不可欠となっていくでしょう。
労災問題
先ほどお伝えしたような、心身不調の問題に伴い、労災請求が増える問題が起きます。
以下の図は、過労死・過労自殺の労災請求件数の推移と、請求が多い業種について示したものです。
本図からも分かるように、精神障害による自殺が多く、労災請求は年々増加しています。
身体障害での労災件数も多いです。
労災に伴い、訴訟や賠償請求が生じる可能性もあります。
そうなると、企業にとって、経済的・精神的負担のリスク
や、企業の評判
にも影響が出ます。
これらを避けることを考えると、
健康経営の必要性が高くなるでしょう。
休職者・離職者の問題と原因・解決策
以下の図は、若者の離職原因を示した図です。
離職をするということは、原因によっては、離職前に有給休暇や労災などを用いて休職する可能性も高く、そういった社員は多いです。
LIBERにご相談にこられるかたの中にも、休職を経て、そのまま離職するかを悩まれているかたも多くいらっしゃいます。
また、以下のようなデータも出されています。
- 鬱による休職者率・・・50~70%以上。復職率20%~50%。
- 心身不調による退職率・・・40%以上。
以上の離職・休職する確率から、次の働き手を探す必要が出てくる可能性もあります。
と、いうことは、また人事や求人媒体、エージェント、新人教育などに膨大な経費がかかるということです。
そして、また同じ理由で直ぐに休職や離職する社員が増えると、これらをエンドレスで繰り返すことになります。
原因のデータからは、
1位「肉体的・精神的に損ねたため」という心身不調、
3位「人間関係が良くなかったため」、
6位「仕事が上手くできず自信を失ったため」が、あがっています。
これらを解消するにはどうしていくと良いでしょう。
例えば・・・
心身不調については、心身不調にならないような対策をとり、
また、心身不調になってしまった場合は、ケアやトレーニングを導入していくと、業務効率が上がりやすく、仕事のパフォーマンス向上につながりやすいです。
更に、仕事の成功率が上がる可能性が高まります。
また、メンタルトレーニングや人財(人材)教育を行い、思考や行動が整うことでも、仕事の成功率が上がる可能性が高まります。
仮に、失敗したとしても、思考や行動が整い、マインドセットができるようであれば、「自信を失ったから辞める」ということにはなりにくいです。
細かい内容や説明については、ここでは割愛いたします。
”経営”について考えると、健康経営以外にも様々な戦略が必要となりますが、以上のデータからも、人事の面において
健康経営の必要性は高いです。
経済的リスク
では、離職者や休職者が出ることで起きる経済的リスクについて簡単にみていきましょう。
メンタル不調等により
6カ月休職した場合にかかるコスト・・・
従業員1人、年収約600万円の社員での試算での例:
約422万円のコストがかかる(内閣府「企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット」より)。
状態によっては、更にコストがかかる可能性があります。
休職3カ月間と想定した場合、50万円~の手当等のコストがかかる(企業により変動)。
メンタル疾患による経済損失は、
約2兆7000億円にも上ると試算されています(厚生労働省より)。
新しい人財(人材)のリクルート費用・教育費用など、約100万円~180万円(利用媒体等により変動)。
人的リスク
- 休職者に関わる社員の、求職者への対応にかかる心身のストレスと、それに伴い、離職者・休職者が増加するリスク。
- 休職、離職による他の社員への業務負荷量の増大。
- 自殺や迷惑行為等による周囲への心身のストレス、企業の評判が悪くなるリスク。
- 定年延長等での高齢者の社員を維持・確保して補填するも、高齢者であるために、労災・疾病のリスクが高くなる。
いかがでしたでしょうか。
健康経営は、そんなに重要視することでもない、というところに位置づけされがちですが、意外とリスクがたくさんあり、健康経営に取り組むことでメリットもたくさんあります。
今後、企業がよく抱える悩みや、解決できること、簡単な事例などを挙げていく予定です。